全国知事会は「困難な環境にある子どもへの支援策の抜本強化に向けた緊急提言」について、5月17日に左藤 内閣府副大臣及び中村 文部科学大臣政務官、5月21日に藤原 内閣官房内閣審議官・厚生労働省子ども家庭局児童虐待防止等総合対策室長に要請活動を行いました。知事の皆さんも「子どもの貧困」最重要課題だと認識されていると思います。以下は「困難な環境にある子どもへの支援策の抜本強化に向けた緊急提言」の全文です。
困難な環境にある子どもへの支援策の抜本強化に向けた緊急提言
現在、およそ7人に1人の子どもたちが、貧困の状態にあると推計されるなど、子どもたち
は、生活の困窮という経済的要因のみならず、家庭における教育力の低下や地域社会の見守り
機能の低下などを背景に、本人の努力の及ばぬ中で、その有為な将来が閉ざされてしまいかね
ない大変厳しい状況にあります。
また、児童相談所の児童虐待相談対応件数は13 万件を超え、千葉県野田市で小学4 年生女
児が虐待を受けて亡くなった児童虐待事案が発生するなど、重篤な児童虐待事案が後を絶たな
い深刻な状況にあります。
こうした中、国においては、「子供の貧困対策に関する大綱」の見直しに向けた検討が進め
られ、「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」の策定や児童福祉法等の一部改正に取り組ん
でいるところであり、都道府県においても、地域の実情に応じたきめ細かな支援に全力で取り
組んでいるところです。
今後、国と地方が一体となり、困難な環境にある子どもたちへの支援を加速させ、すべての
子どもの安心と希望を実現するために、下記の内容を緊急に提言します。
1.子どもの貧困対策の強化
<学校等をプラットホームとした支援策の充実・強化>
(1)教職員定数の拡充
・少人数・習熟度別指導など個に応じたきめ細かな学習指導の充実や、小中学校等に
おける生徒指導の強化などに向けた教職員定数の更なる拡充
(2)教育相談体制の強化
・スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置拡充・待遇改善のため
の十分な財源の確保及び人材の確保
(3)放課後等における学習の場の充実
ア 放課後等における学習支援の充実に必要な財源の確保
イ 放課後児童クラブ利用料の無償化
ウ 生活困窮世帯等の子どもたちに対する学習支援について、国庫補助の事業費上限の
撤廃、補助率の引上げなど財政支援の強化
(4)地域と学校との連携・協働の強化
・地域学校協働活動を通して、地域社会全体の教育力の向上に必要な財源の確保
(5)子どもの居場所の確保・充実
ア 家庭、学校に次ぐ第三の居場所となる「子ども食堂」などへの財政面も含めた包括
的な支援
イ 子ども食堂への全国レベルでの食材供給の仕組みの構築
<義務教育段階における就学援助>
・市町村が実施する準要保護児童生徒に係る就学援助が、財政状況に拠って対象者の範
囲や要件が制限されないための財源の確保
<進学に向けた支援>
(1)低所得家庭に対する教育費負担軽減施策の充実・強化
ア 高等学校等就学支援金に係る低所得者に対する加算支給額の拡充
イ 単位制高校進学者や休学に伴い修業年限を超過する者等に対する支給制限、支給月
数の制限の解消など高等学校等就学支援金の拡充
ウ 私立学校の授業料無償化の実現
エ 高校生等奨学給付金の更なる充実、大学等に進学する者に対する給付型奨学金の大
幅な拡充など、高校・大学・専門学校等に関する教育負担軽減施策の充実・強化
<住まい・就労・生活への支援>
(1)ひとり親家庭への支援策の更なる拡充
ア 高等学校卒業程度認定試験や自立支援教育訓練のための講座期間中の生活支援策
の創設、高等職業訓練促進給付金の支給額の増額など資格取得及び技能習得支援策の
拡充
イ 児童扶養手当額の増額及び所得制限の引き上げや、多子加算額の支給額逓減措置の
撤廃
ウ 医療費助成制度の創設
エ ひとり親家庭に対する医療費助成に係る国民健康保険の国庫負担減額調整措置の
廃止
オ 養育費確保に向けた公的な支援制度の検討
カ 民間アパート等を活用した母子保護の実施に対する補助制度の創設
(2)母子父子寡婦福祉資金及び生活福祉資金の更なる充実
ア 母子父子寡婦福祉資金に係る連帯保証人なしの場合の貸付利率の引き下げ、生活福
祉資金に係る所得制限の引き上げ
イ 両資金の貸付限度額の引き上げ
<都道府県の子どもの貧困対策計画等への支援>
(1)国主体の子どもの貧困の実態調査の実施と情報提供
・貧困の世代間連鎖の解消に向けた支援に当たっては、対象となる子供の把握が困難な
ことや、都道府県別の「相対的貧困率」や「子どもの貧困率」等のデータがなく施策
効果を図る適当な指標がないことから、国の責任において、世帯や子どもの実態を把
握する仕組みの構築や全国統一的な基準を用いた指標の設定などを行い、都道府県別
のデータを提供すること
(2)地方が取り組む子どもの貧困対策への継続的な財政支援
・平成30 年度予算で当初予算化された「地域子供の未来応援交付金」について、地域で
の取組をより効果あるものとしていくために当初予算規模の拡大を図るとともに、対
象事業を拡大し、地域の実情に応じてより使い勝手の良い交付金となるよう運用の弾
力化とともに事業の恒久化を図ること
(3)市町村の役割強化
・市町村における取組が進められるよう、子どもの貧困対策における市町村の役割を明
確にするとともに、国において必要な財源の確保など十分な支援措置を講じること
2.児童虐待防止対策の推進
<未然防止のための支援策の充実>
(1)就学前の子どもの保護者への個別支援の充実
ア 保育所等において保育だけでなく、子どもとの関わり方についての助言など親への
支援も行う保育士等の配置に要する財政支援の強化
イ 子どもの状況を適正かつ円滑に小学校に引き継ぐなど、生活面で課題を有する家庭
と関係支援機関とをコーディネートする人材を保育所等において確保する仕組みの
導入
(2)親支援・親育ての促進
ア 乳幼児期から学齢期までの子どもを持つ親育てプログラムの開発・普及や家庭の教
育力の向上への支援
イ 乳児院などを活用し、親子が共に生活をしながら子育てを学ぶことができる制度の
構築
<母子保健から児童福祉までの切れ目のない支援体制構築>
(1)児童相談所の体制強化
ア 「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」に基づく専門的人材の育成確保及び必要
な財源の確保
イ 弁護士、医師及び保健師の配置に向けた十分な確保対策と財政支援等の強化
ウ 児童虐待対応事案の支援となるAI開発等、先駆的な取組の推進
(2)市町村の子ども家庭相談体制の強化
ア 全市町村への子ども家庭総合支援拠点の整備促進に向けた専門的人材の育成確保
及び必要な財源の確保
イ 要保護児童対策地域協議会の調整機関としての専門性の確保に向けた人材育成、
財政支援等の強化
(3)子育て世代包括支援センターの設置促進
ア 妊娠期から子育て期までの切れ目のない支援を提供する「子育て世代包括支援セ
ンター」の全国展開に向けて、設置を促進するための専門的な人材及び必要な財
源の確保
<関係機関等との連携強化によるきめ細かな支援体制づくり>
(1)関係機関間の連携強化
ア 児童相談所と市町村の情報共有を効率的に行う全国共通情報連携システムの整備
イ 児童相談所と警察との円滑な連携強化に向けた警察OBの常勤的な配置や警察職
員の出向を進めるとともに、配置に必要な財政支援の拡充
(2)子どもや家庭を見守り育む地域づくりの推進
ア 地域福祉の中心的な役割を担う、民生委員・児童委員の活動費用の充実
3.「新しい社会的養育ビジョン」の理念に基づく家庭養育優先原則の実現
(1) 社会的養育の充実
ア 家庭養育優先原則に基づく里親養育支援体制の整備の強化
イ 里親制度や養子縁組に関する普及啓発と財政支援の拡充
ウ 地方の実情に応じて柔軟に対応できるよう、フォスタリング機関の取組を支援
エ 児童養護施設等の小規模化・地域分散化や、親子関係改善のための通所指導に取り
組むといった多機能化などに対応するためには、人材の確保が不可欠であることか
ら、国において主体的に取り組むとともに、施設の安定的運営や施設整備に必要と
なる財源の確保を図ること。
(2)児童養護施設等の自立相談支援体制の強化
ア 児童の自立支援を専門に担当する常勤職員を最低基準として配置するための財政
支援の拡充
令和元年5 月17 日
全国知事会 会長 埼玉県知事 上田 清司
全国知事会 次世代育成支援対策プロジェクトチームリーダー
山口県知事 村岡 嗣政